2021年9月23日木曜日

低周波用LNAの作製

周波数帯域 0.1~1000Hz、ゲイン 60dB、雑音6nV/√Hz の LNA を作製したので紹介します。

本アンプをオシロスコープの前段に配置することで、オペアンプや電源ICなどから出力される微小なノイズ信号を高いS/Nを維持した状態で測定することが可能となります。

外観写真

内部写真

回路は非常にシンプルです。

アナログデバイセズの低雑音ゼロドリフトアンプ ADA4522-2 で 60dB の非反転増幅回路を2セット構成し、その出力信号を抵抗で合成することでアンプで生じるノイズの低減を図っています。1セットのみでは出力雑音が 310uV 程度ですが、2セットをパラで接続することで 240uV 程度に改善されました。

電源は12V入力±5V出力の絶縁型DCDCコンバータを使用しています。そのまま使用すると100kHz程度のスイッチングノイズを大量に輻射します。銅箔テープで6面シールドして磁束成分の漏れを抑え、2次側出力にはフェライトビーズを挿入してノイズをカットしています。この対策によりアンプ出力部において、DCDCコンバータ由来のノイズはほぼ観測できないレベルまで低減できています。

ケースにはタカチの TD型アルミダイキャストボックス TD7-10-3N を使用しました。
堅牢な作りの割にアルミ製で加工しやすく、シールド性能にも優れており気に入りました。

回路図(電源回路除く)

アンプの周波数特性実測値です。
入力端子直近に60dBのアッテネータを挿入し、FGから正弦波を入力して出力振幅をプロットしたものです。
概ね期待通りの特性が得られています。

周波数特性実測値

なお、本評価を行う際には、アッテネータの挿入位置に注意する必要があります。
損失が全く存在しない理想的な同軸ケーブルであれば、アッテネータをどこに挿入しても同じ結果が得られますが、現実の同軸ケーブルには僅かな直流抵抗が存在します。FGからアンプまでの同軸ケーブルに生じるコモンモード電流と、この直流抵抗により生じるノイズ電圧がS/Nの悪化を引き起こします。


アッテネータはアンプ直近に入れる


アッテネータをFG直近に挿入した場合は、アッテネータで減衰された微弱な信号に対して、同軸ケーブルのコモンモード電流に起因するノイズが加算されS/Nが悪化します。
⇒ アンプ入力信号 = (FG出力 / ATT) + コモンモードノイズ

アッテネータをアンプ直近に挿入した場合は、FGの信号とノイズ信号の加算値に対してATTが掛かります。
⇒ アンプ入力信号 = (FG出力 + コモンモードノイズ) / ATT
となり、高いS/Nを維持した状態で微弱信号を入力することが可能となります。


雑音性能についても実測しました。
アンプの入力端子を50Ωで終端し、出力雑音(実効値)をオシロスコープで測定しました。
オシロスコープ自身の雑音を差し引くとアンプ単体の入力換算雑音は 240nVrms 程度でした。入力換算雑音密度に換算すると 240nV / sqrt(1000 * 1.571) = 6.05nV/√Hz となります。

入力終端時の雑音レベル(オシロの垂直感度は+60dBに設定)

オシロ単体でDCオフセットをキャンセルした雑音電圧が測定できないため、波形データからExcelで標準偏差を算出

なお、LTspiceでシミュレーションすると入力換算雑音は251nVとなり、実測値と近い値が得られました。




以下はこのアンプを使用して各種電源の評価を行った例です。

YOKOGAWA 7651 10Vレンジで5V出力時。5.23uVrms。
ハムノイズが若干漏れていますが、非常にローノイズです。


KENWOOD PWR18-2TP 0~8V出力端子から5V出力時。50.14uVrms。
770ms周期で謎のドロップがあります。内部のデジタル処理に起因しているのだろうか・・・


NJM12888F33 出力(300Ω負荷時)。23.15uVrms。
ソフトスタート用コンデンサ接続なし

NJM12888F33 出力(300Ω負荷時)。8.77uVrms。
ソフトスタート用コンデンサ 100nF接続

このコンデンサはバンドギャップリファレンスの平滑を兼ねているため、
コンデンサ接続により出力ノイズの低減が図れるようです。


一台作っておけば何かと役に立ちそうです。
さらに帯域を落とした 0.1~10Hz 版もそのうち作ってみたいと思います。

参考資料
・Ultralow Noise Tester: 9V Battery vs. 7805 vs. LTZ1000 (https://youtu.be/XpbDMo8an5w)
・低ノイズ電圧リファレンスの775ナノボルトのノイズの測定 (https://www.analog.com/media/jp/technical-documentation/application-notes/jan124f.pdf)

(2021-11-23)
抵抗の熱雑音の影響を小さくするため、R2を100Ωに変更、R3を撤去(0Ω)しました。
実力で5nV/√Hzくらいになっています。


(2022-04-30)
Analog Discovery Pro 3250 を入手したので、こちらでも周波数特性とノイズ性能を測定してみました。14bit分解能のADCとDACを搭載しており、ダイナミックレンジを生かした計測ができます。(ADCに関しては、25MS/s未満で動作時にはソフトウェア処理で分解能が16bit相当になるようです)

WaveGenの出力をそのままLNAに入力すると、LNAが飽和してしまうため30dBのアッテネータを挿入して測定しました。WaveGenの出力インピーダンスは50Ωのため、RF用のアッテネータがそのまま使用できます。
ADP3250で計測したLNAの周波数特性
Low:(-3dB) = 0.078Hz
High:(-3dB) = 983Hz


ADP3250で計測したLNAの入力換算雑音
入力側を0Ωで終端している。概ね5nV/√Hz以下となっている。

一方、ADP3250からLNAを取り外して、ADP3250の入力端子を0Ωで終端した状態でノイズを測定したのが以下のスクショ。10Hzより下ではADP3250自身のノイズが大きいため測定精度は悪化してしまう。

ADP3250の入力端子を0Ω終端して自身のノイズを測定。
LNAのノイズを見るときには、このノイズを差し引く必要がある。
(CH1のAttenuation が x0.001 となっていることに注意。ADP3250端での入力換算雑音は1000倍となる)


おわり


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