2020年7月23日木曜日

10MHz GPSDOの作製

ご無沙汰しております。金魚です。元気でやっています。

久々に実用的な電子工作(?)をやったので紹介したいと思います。今回は計測器の周波数基準器として使われるGPSDOを作製しました。
GPSDO(GPS Disciplined Oscillator)とは、GPS/GNSS測位時に得られる正確な1PPSパルスを用いて、内蔵した発振器の周波数を常時補正しながら動作する周波数基準器を指します。eBay, Aliexpressなどで探すと1万~2万円程度で完成品が購入できますが、ダブルオーブン式のOCXOを持っているので自作してみることにしました。


以前投稿した「OCXOの安定度測定」という記事で、PPS信号を使用してフリーラン状態のOCXOの周波数安定性を評価しました。1週間フリーランさせた場合に20mHz程度の変動がありそうだなーという結果が得られました。10MHzにおける20mHzというのは2ppbの誤差に相当します。温度補償水晶発振器(TCXO)の精度が1ppm程度なので、それに比べると正直十分すぎる精度なのですが、やはり限界を突き詰めたい・・・というロマン(沼)があるので、取り敢えず作ってみたという感じです。
なお、周波数基準器(他の測定器にも言えるが)の沼は深いので注意したほうが良いです。高精度な機器を手に入れると、その機器の精度が気になりはじめて更に高精度なものを・・さらにさらに高精度なものを・・・と、気づけば散財しがちです。究極を求めるのは楽しくて色々と学べることもあるので良いのですが、程々のところで妥協しておくのがコツです。幸いなことに、GPSモジュールから出力される1PPS信号は常時校正されているので、長期的な精度に関しては安心(諦め?)ができます。

さて、作製したGPSDOのざっくりした仕様は次のとおりです。
  • 出力周波数:10MHz±2mHz, ±0.2ppb
  • 出力数:3CH(CH間及び筐体アースとは絶縁)
  • 出力波形/レベル:正弦波/約240mVrms(50Ω終端時)
  • 内蔵発振器:TCO-6920N(EPSON TOYOCOM製)
  • 周波数測定分解能:±1mHz(測定時間1000sec)
  • 周波数制御分解能:約0.2mHz(DAC分解能とOCXO感度より算出)
  • 電源:AC100V / 約8W(OCXOオーブン温度安定後)
  • UI:16x2行キャラクタLCD、LED3灯(LOCK、1PPS、アラーム)、ロータリエンコーダ
  • 通信I/F:USB接続(UART通信、筐体アースとは絶縁)
  • 主要機能:周波数測定結果表示、DACレジスタ値表示・設定、GPS衛星捕捉状態表示、NMEAデータ出力、日時・周波数・内部温度ログデータ出力、PPSサウンド出力他


【完成写真】
先に完成写真と動作の様子を載せておきます。文字のレタリングを手抜きしているのがバレバレですが、売り物ではないのでヨシとします(笑)

普段はファンクションジェネレータの上に乗っけて通電状態にしています。
LCDの表示内容は左上から順に、現在の周波数、ゲート時間(10sec単位)、UTC時刻、位置特定品質、使用衛星数です。ロータリエンコーダにはプッシュスイッチが内蔵されており、押すごとに表示内容および設定項目が変わります。

背面です。白色マーカが活躍。



【作製の様子】
(以下、写真だらけの見づらい内容ですがご了承ください・・・)
①筐体検討
まずは主要な大柄部品を並べて、筐体サイズの検討から行います。
少し窮屈ですが、タカチのアルミケースYM-180に収まりそうな感じなので、これで行くことにします。
YM-180の底面サイズにダンボールを切り抜き・・・

部品を乗せてみる。なんとか収まりそう。

②パネルデザイン・部品配置検討
ケースや足りない部材やらを秋月で発注して、パネルデザイン・部品配置の検討に入ります。BNCコネクタやLCD、ACインレットなどは内部の部品と干渉しがちなので、実際のケースを手にとって確認しておくと安心です。なお、この段階ではロータリエンコーダではなくボタン3つを使用する予定でしたが、良さげなパネル取り付けのボタンが見つからずに途中でロータリエンコーダに変更しました。また、USB-UARTの取り付けを考慮できておらず、後々基板をカットすることになります・・・。
配置がおおよそ決まったら、CADツールに入力し、実寸サイズで印刷しておくと後の加工で役に立ちます。
部品同士が干渉しないように注意

背面加工図(USB-UARTが抜けてる)

前面加工図

③ケース加工
ケースに実寸サイズで印刷した図面を糊付けし、穴あけなどをやっていきます。
ハンドニブラを持っていないので、角穴はドリル + ヤスリで仕上げていきます。
オートセンターポンチ(SK11製AP-10)を購入したので使ってみましたが、最弱の設定でもパワーが有りすぎてケースが歪みました。柔らかいアルミケースにはもう少し優しいポンチを使うべきでした。
このような工作において、ケース加工が一番面倒ですね。特に表面パネルは失敗すると目立つので気を使うし、思った通りの寸法で仕上がらなくて部品が収まらなかったり・・・単に自分がヘタクソなだけなんですが、3Dプリンタをうまく活用して楽したいところでもあります。
オートセンターポンチが強すぎた・・・

角穴はドリルで輪郭を穴あけ→ニッパーでつなげてヤスリで仕上げる

良い感じに加工できた

④回路設計・部品実装・配線作業
やっとThe 電子工作という感じのフェーズに入ります。
今回は、制御MCUとして使い慣れているAVRマイコンを使用しました。アナログ回路についてはよく分かっていないので、雰囲気+LTspiceを活用して設計していきます。OCXOの制御端子に与える電圧精度・安定性が出力周波数精度にもろに影響するため、GNDのとり方や基準電圧IC、分圧抵抗には気を使います。
参考までに回路図を添付しておきます。動作の保証はありませんので、真似される際にはご注意願います。
回路図

処理部基板

出力バッファ基板(この上に処理部基板がスタックされる)

クリティカルなVC生成部は、OCXO基板の裏側に実装しました。少々雑な仕上がりですが、OCXOのGND端子直近にベタGNDを確保できるため、配線抵抗による誤差要因を排除でき安定動作が期待できます。

絶縁ヨシ!

配線完了後の様子

⑤ソフトウェア実装
次は楽しいソフトウェアの実装です。
ドライバ層からコーディングしていき、マイコンのペリフェラルが意図通りに動作すること、周辺部品(LCD、I2C-DAC、I2C温度センサ、スイッチ、LED類)が動作することを確認していきます。
Timer1のインプットキャプチャのトリガを1PPS信号にしておくと、ソフトウェアの遅延やデッドタイムなしに周波数計測が可能となります。
なお、10MHz信号を直接AVRでカウントする際には注意点があります。Timer1のカウンタクロック入力は、AVRの動作クロックで同期化(2段D-FF)されているため、AVRの動作周波数を20MHz以上にしないと取りこぼしが発生し正しい計測ができません。推奨としてはカウンタクロック * 2.5倍以上とされているため、今回は25MHzでAVRを動作させています。
最大動作周波数20MHzに対して25%ほどオーバークロックしていることになりますが、この程度なら問題なく動作します(といっても定格範囲外なので、半導体プロセスのばらつきによりFmaxが低い個体にあたった場合はオーバークロック耐性が劣る場合もあるかと思います。使用する石で必要なペリフェラル機能が動作することを確認の上採用ください。過去の実験では30MHz程度までなら問題なく動作していました。趣味の世界なので動きゃOKですが、量産品ではもちろんNGです(笑))
肝心なOCXOの周波数制御ですが、ゲートタイム1000secで周波数測定を行い、10MHz±1mHz以上の誤差が生じた場合は、DACレジスタを1LSBずつ調整する動作となっています。この方式では、目標周波数に到達するまでにかなりの時間がかかりますが、予め調整用VRで目標値付近に追い込んだあとに、DACレジスタ初期値を適切に与えてやればすぐに収束します。
LOCK表示灯は、10MHz±2mHz以内の場合に点灯するようにしています。ALM表示灯は、PPS信号が出力されない or 衛星補足数が3基未満の場合に点灯します。ソフトウェア機能については追加・改善の余地ありです・・・。
ソースコードは以下で公開しています。

マイコンリソースの割り当て状況。

基準電圧IC + I2C-DACの動作確認

DACレジスタを1LSBづつ変化させたときのVC電圧変化
200μVステップ(≒0.2mHz)で周波数制御できる

⑥完成&評価
以上で作製は完了です。USB-UART経由でログが出力されるので、約3日間の周波数変動を取得してみました。エアコンの風がもろに当たる環境なので、外出・帰宅時に内部温度が10℃以上急変する場面がありますが、出力周波数は±2mHz以内の変動に収まっています。想像していた以上に安定しているようです。(周波数カウント処理で±1mHzのカウント誤差が生じるため、厳密には±3mHzと考えるべきかな?)
これからも継続的にログを取得し、1年を通してどのような変化があるのか観察していきたいと思います。
10MHz 3CH出力波形(終端開放時)

約3日間の動作ログ



【まとめ】
GPSDOの自作にあたって、VC生成部の温度特性に悩まされて基準電圧ICをTL431からREF192Fに変更したり、簡易恒温槽で評価したりと色々試しましたが、最終的にはそこそこ高精度な物に仕上げることができました。適当に作った割に周波数が安定しているのは、EPSON TOYOCOM製のTCO-6920Nが優秀なおかげと思います・・・。回路やソフトはまだまだ改善の余地があると思いますが、現状の機能・性能で取り敢えずは満足しているので、追々Updateしていく予定です。面白いネタがあれば投稿します。
1PPSが出力できるGPSモジュールも、Aliexpressで600円程度で購入できるようになりました。これで常時校正された10E-13程度(1PPS信号の短期精度は、大気中の伝播経路の状態変化やモジュール内部クロックに依存する揺らぎが存在するため、長期平均化が必要)のタイミングが手に入るわけですから、GPS衛星とそれを支える技術には感謝しかありません。今回のように周波数基準器として使うなり、時計にするなり、多拠点で精密にタイミング同期を取るなり、速度計を作るなり、インテリアとして飾るなり・・・応用は無限大です。
また、GPS衛星から送られてくる電波(L1信号:1575.4MHz)は波長が短く、アンテナも小型に作ることができます。右旋円偏波のため、通常のダイポールアンテナではなく、QFHアンテナが適しています。付属のパッチアンテナに飽きたらアンテナ自作にチャレンジしてみるのもアリです。なかなか思うような特性にならずイライラ(?)しますが、高度約2万kmの衛星から送られてくるGPS電波に思いを馳せながら針金細工をするのも良いものです。

試作した1575.4MHz用QFHアンテナ

自作のQFHアンテナで受信を試みている様子


【参考資料】

【2021/6/5追記】
出力信号のスペクトラムを見てみました。
同一レベルに設定したRIGOL DG1022Zと比較すると、本機の出力は60~80MHzがもっこりしておりあまり綺麗ではありませんね。おそらく分配用の回路が発振気味だと思うのでそのうち作り直そうと思います・・・。


【2021/6/14追記】
測定条件(スペアナの設定)が誤っていたため正しいスプリアスが測定できていませんでした。総務省が打ち出している測定条件に従って再測定してみました。上段がGPSDO、下段がDG1022Zです。
(https://www.tele.soumu.go.jp/resource/j/others/spurious/files/sanko003.pdf)


RBW=10kHz / VBW=10kHz / ピーク検波

■GPSDO
基本波:0.5dBm
第2高調波:-35.0dBm (-35.5dBc)
第3高調波:-44.5dBm (-45.0dBc)
第4高調波:-60.9dBm (-61.4dBc)

■DG1022Z
基本波:0.5dBm
第2高調波:-49.8dBm (-50.3dBc)
第3高調波:-71.2dBm (-71.7dBc)
第4高調波:-72.9dBm (-73.4dBc)

【2022/5/1追記】
久しぶりに点検兼ねて分解してみたところ、分配器入力配線のGND接続が行われていないことが発覚しました・・・。配線を修正し、半田面側にシールドを追加すると60~80MHzに出ていたもっこりしたスペクトラムは消滅しました。また、このもっこりスペクトラムの犯人はマイコンからの放射ノイズでした。マイコンをリセット状態に維持しておくと、修正前でもモッコリが消滅します。
せっかく分解したので基準電圧ICを REF192F → AD780AN にアップデートし、OCXOのVC端子に入力されるノイズが少なくなるようにオペアンプ周辺の定数・フィルタも見直しました。修正前に比べて rms ノイズが約1/2に低減しました。

分配基板の裏面のGND強化&シールド追加

スペクトラム再測定結果。高調波のレベルは殆ど変化していないが、モッコリが消滅した。

更にマイコン基板と分配基板の間に銅箔シールドを挿入し、マイコン基板の電源ラインへのフェライトビーズ挿入など地味な対策をすると100MHz以降のノイズレベルがぐっと下がりました。

マイコン基板 - 分配基板間のシールド(雑・・)

シールド・フェライトビーズ挿入後。
デジタル回路由来の高調波が抑制されている。


おまけ:
GND修正前後のクロックジッタの比較結果。
GPSDOから出力される10MHzの信号をオシロに入力し、トリガ位置から1ms後のジッタを測定した結果です。修正前は明らかに大きすぎるジッタが重畳していました。マイコンをリセット状態に維持するとジッタが収まるため、マイコン基板のGND配線経由で分配器にノイズが回り込んでいたものと思います。
今回作製したGPSDOは、分配基板の真上にデジタル回路が鎮座しており、出力ノイズ(≒ジッタ)を小さくするという観点ではNGな設計でした。次作(あるのか?)では、予めOCXO単体でのジッタ性能を測定して限界を見極めた上で、部品レイアウトにより性能が低下しないように注意したいと思います。

GND接続修正前

GND接続修正後


おわり

2019年10月20日日曜日

IOEのFast Input/Output Registerを活用しよう

MAX10 FPGAの評価ボード(EK-10M50F484)を用いて、HDMI信号を出力する際に数日間嵌まったので忘れないようにここに書いておく。

■嵌まった内容
FPGAボード上に搭載されているHDMIトランスミッタPHY(アナデバADV7513。以下PHYと呼ぶ)から、Full-HD 60fpsの信号を出力している際に、稀に同期信号が外れて映像が乱れる or 映らなくなる現象が発生した。FPGA内部のビデオ信号/同期信号以外のモジュールを修正した場合や、ドライヤーでFPGAパッケージ温度を上昇させることでも現象が発生することもあり、非常に悩まされた。
発生当初、タイミング系のトラブルだろうな・・・?とは予想していたが、Fmax値は満足しており、タイミング制約の書き方が誤っているのではないだろうか??と疑いを掛けて何度もSDCファイルを書き換えては再合成を繰り返していた。
SDCファイルを何度か書き換えて試行錯誤していると、一時期安定動作することもあったが、周辺回路を追加していくことで映像が乱れる現象が再発し、ますますワケガワカラナイ状態だった・・・。

■PHY < = > FPGA間の信号観測(失敗)
映像が乱れる原因として、PHYのタイミング制約を満たしていないのでは・・・?という疑問が湧いてきた。
気になったので、オシロスコープで信号を見てみることにした。
以下の画像が測定した波形だ。
オシロでPHY信号を測定(CH1:CLK / CH2:Video Data)

う~む・・・分からん。
オシロの水平軸は目一杯拡大しているが、5ns/divが限界。また、このオシロのアナログ帯域は100MHz、サンプリング速度は500MS/s(2ch時)である。観測したい信号のクロック周波数はFull-HD 60fpsのピクセルクロック ≒ 150MHzなので、帯域/サンプリング速度ともに不足している。また、PHY信号線にプローブを接続すると、プローブの入力容量により信号が劣化し、全く映像が出なくなってしまった。
手持ちの測定器による評価は無理だと分かった。。😨

参考までに使用したプローブのスペックを以下に示す。RIGOLのRP2200というパッシブプローブだ。
RP2200のスペック

x10で使用したときの帯域は150MHz、上昇時間2.3ns、入力容量は標準で17pFだ。
プローブを接続することで映像が出なくなった原因は、プローブの入力容量による信号レベルの低下や歪が考えられる。17pFの容量は、150MHz信号に対して約62Ωのインピーダンスとなり、ドライブする側(FPGA)の負担となる。

■Quartus Timing Analyzerでの解析
オシロスコープによるタイミング測定が失敗に終わったので、Quartus Primeに付属のTiming Analyzerを使用してPHYの駆動タイミングを検証してみた。
Quartus上のTools => Timing Analyzer => Custom Reports => Report Path...
で対象の信号を選択する。

Report Pathボタンを押すと内部レジスタからポートまでの遅延時間が解析される。
内部レジスタからポートまでの遅延時間解析結果

ここで解析された時間をブロック図に書き込んだのが以下の図になる。
FPGAとPHYの接続と遅延時間の関係

PHYのビデオデータセットアップタイム(min)は1.8ns、ホールドタイム(min)は1.3nsとなっている。FPGAからPHYまでの配線は、目視によるボード確認でミアンダ配線となっており等長と予想される。PWB上のCLKとデータの伝搬遅延がほぼ同じになれば、CLKを基準としてデータをサンプリングするPHYにとっては配線長を考慮する必要が無くなる。そうなると、CLKの遅延時間4.584nsに対して最も近いDE(Data Enable)の遅延時間5.407nsの両者でホールドタイムが満たせていないことになる。
 セットアップタイムは 6.666 - (5.407 - 4.584) = 5.843ns (min 1.8ns OK)
 ホールドタイムは 5.407 - 4.584 = 0.823ns (min 1.3ns NG)
と計算できる。
セットアップタイム/ホールドタイムの計算

SDCファイルを何度か書き換えて試行錯誤していると稀に上手く動いていたのは、たまたま出力レジスタとポート間の遅延時間がこれらセットアップ/ホールドタイムの制約を満たす位置に配置されたためと想定される。CLKはFFを介さずに出力ポートへ接続されるため、何度かコンパイルを行っても同じ遅延時間(4.584ns)となっていた。

FPGAに回路を追加したり、SDCファイルを少し変えただけで信号遅延時間がコロコロ変わるのは非常に扱いづらい。そこで、本題のIOEに内蔵されたレジスタが活躍する。これはFPGAの各I/Oピンの直近に固定配置されたレジスタで、出力用/入力用/OutputEnable制御用の3つがある。今回はOutput Registerを使用する。
MAX10 IOEの構造図

IOEのOutput Registerの使い方はとっても簡単だ。
・・・とその前に、Output Registerを使用するためには、最終段のFFからFPGAの出力ポートの間に組み合わせ回路を入れてはならないという制約事項がある。上のブロック図からも明白なように、Output Registerから出力ポートまでに組み合わせ回路を入れられる構造を持たないからだ。また、この制約のおかげで遅延時間が最小かつ固定にできているとも言える。
今回、PHYへの信号はすべてFF出しとなっているため、この制約をクリアする。
PHY制御信号生成部のRTL Viewer抜粋

まず、プロジェクトの解析と論理合成フェーズまでを完了しておく。
次にQuartusツールバーのAssignments => Assignments Editorを起動する。
Toの<<new>>を選択し、Node FinderからOutput Registerを使用したいポート名を入れて検索する。
Node Finderで対象の信号を追加

信号を右側のNodes Foundに追加したあと、OKを押すと以下のようにAssignments Editorに追加される。
Assignments Editorに追加された様子

次に、黄色くなっているAssignment Nameに”Fast Output Register"を選択し、Valueを"on"にする。一行設定できれば、複数の行を選択してCtrl + C, Ctrl + Vで一括で設定できる。設定が完了すると、Status欄にチェックマークがつく。
Status欄にチェックが付けばOKだ

ここまでできたら、フルコンパイルを実行して、制約内容を配置配線に反映させる。
以上でIOEのOutput Registerを使用する設定は完了だ。
なお、今回は出力ポートを指定したが、RTLのレジスタ名を指定して制約を掛けることもできる。

コンパイルが完了したら、再びTiming Analyzerを起動して、遅延時間を確認してみよう。OutputRegisterに割り当てられたことで、CLKを除く各信号の遅延時間が2.345~2.386nsに収まっている。出力ポートまでの遅延時間が短くなっていることに加えて、信号間のばらつきが小さくなっていることにも注目したい。(From:6.662 - 5.407 = 1.255ns、To:2.386 - 2.345 = 0.041ns)
内部レジスタからポートまでの遅延時間解析結果(Output Register使用後)

FPGAから出力されるバス信号の出力遅延が揃うことで、タイミングマージンを確保しやすくなり、等長配線の効果も発揮される。

ここで再びPHYのタイミング制約を満たしているか確認してみよう。
クロックのほうがデータよりも遅延時間が長くなったため、以下のように算出できる。
 セットアップタイムは 4.584 - 2.386 = 2.198ns (min 1.8ns OK)
 ホールドタイムは 6.666 - 2.198 = 4.468ns (min 1.3ns OK)
今度はホールドタイムのほうがマージンが大きい結果となった。
セットアップタイム/ホールドタイムの計算

これで、PHYのタイミング制約を満たすことができた。実際の評価ボードでも、安定した映像出力を確認できた。

更にマージンを確保するためには、位相差を微調整した2出力のPLLクロックにて、CLK信号とデータ信号を生成する方法が考えられる。今回は使用しなかったが、今後タイミング関連で嵌ったときには試してみたい。

それでは楽しいFPGAライフを!

■参考資料
https://www.intel.co.jp/content/dam/altera-www/global/ja_JP/pdfs/literature/hb/max-10/ug_m10_gpio_j.pdf
https://timetoexplore.net/blog/video-timings-vga-720p-1080p
https://www.analog.com/jp/products/adv7513.html


2019年4月11日木曜日

HTC10(HTV32)バッテリ交換

3年近く使っているHTC10のバッテリ劣化が深刻なため、交換を行った。
なお、交換時にディスプレイのタッチパネルを破壊してしまったため、正確にはディスプレイ+バッテリの交換となる。

【交換費用】
トータルで掛かった費用は約5,000円。
ディスプレイの破損が無ければ3,000円程度で済んだ。
  • HTC用バッテリ:$10.99 (AliExpress)
  • ディスプレイ:$17.38 (AliExpress)
  • ヒートガン:\1,598 (Amazon)
  • T5トルクスドライバー (手持ち品)

【準備物】
①交換用バッテリ
分解用の簡易工具と両面テープが付属。
(Store: ALPHASC Store)


②交換用ディスプレイ
こちらにもバッテリと同様の工具類が付属。
(Store: iPerfectParts Store)


③ヒートガン
Amazonで安くてそこそこ評価の良いものを選択。
(https://www.amazon.co.jp/gp/product/B07N2PN2QC)
温風は200℃と謳われているが、粘着剤を緩める用途には十分。温風出口が絞られており、局所的な加熱に適している。
熱収縮チューブの収縮作業も問題なく行えた。


④トルクスドライバー(T5)
ベースからメイン基板を取り外す際に使用。


【作業】
作業開始前に重要なデータは必ずバックアップすること。特にGoogle認証システムアプリなど、他のWebサービスに影響が出るものは予め別の端末にコピーしておくと安心。
Youtubeの分解動画がとても参考になる。内部構造を把握しておくと分解時のダメージを最小にできる。
なお、作業される場合は自己責任で。

1.micro SDカード、SIMカードの取り出し
刺さったままだとベースをケースから引き外す際に干渉する。


2.ディスプレイの取り外し
この作業は最も時間がかかるが、慎重に行う。
軍手をして周囲をじっくり加熱してから吸盤とピックを使ってこじ開けていく。
内部のフレキ配線やカメラなどに接触して破壊しないように、ピックの差し込みは2~3mm程度に留めておく。
ディスプレイが完全に外れたら念の為動作確認をしておくと安心。
この段階で既にタッチパネルを破壊していたのかもしれませんが、確認し忘れ・・・。




3.ケースとベースの分離
数本のプラスネジを外してベース(メイン基板やバッテリが搭載されたフレーム部品)とケースを分離する。
ネジを全て外しても、頑固に嵌合しているため、USBコネクタ付近からマイナスドライバー等で軽くこじってやると外しやすいかと思う。
ベースが分離できた段階で、以後の作業でショートによる破損を防止するためにバッテリのコネクタを外しておく。


4.メイン基板の取り外し
HTC10は、バッテリがメイン基板とベースにサンドイッチされた構造のため、メイン基板を外さないとバッテリが外れない。
T5のトルクスドライバーを使用して外す。


5.バッテリ交換
バッテリは両面テープでベースとがっちり接着されている。
鋭利な金属工具で無理やり剥がすと、セルを突き破って最悪の場合発火の危険性があるため、プラスチック製のヘラなどでゆっくり剥がしていく。



6.組み立てと動作確認
バッテリ交換が完了したら逆の手順で組み立てる。
ケースとディスプレイを固定する粘着剤は、1回程度の分解なら十分再利用可能。(防水スマホではないので)
粘着剤の毛羽が立っている場合は、ヒートガンで軽く熱してやると丸く収まって作業性が改善する。

組み立てて動作確認をしたところ、タッチパネルの上部に帯状に不感帯が出来ていた。
まさかタッチパネルを破損させるとは思っていなかったので、すぐに交換用ディスプレイを発注。
不感帯の領域がちょうどChromeのアドレスバーに被るため最悪の使い心地となるが、画面回転機能を駆使してなんとかやりくりした。
以下スクショで線が直角に折れ曲がってる区間が不感帯となっている。



7.ディスプレイ交換
ディスプレイを注文して1週間ほどで到着したので交換。
タッチパネルの動作はバッチリ。交換用ディスプレイには、粘着剤が塗布されていないため、付属の粘着シートを細くカットして固定する。

以上で交換作業は終了。


【交換後の使用感】
交換前は、朝100%充電状態でも仕事から帰る際にはほぼ電池切れ状態、バッテリ残量30%程度でカメラを起動すると突然電源が落ちるなどの症状があったが、朝充電しておけば夜まで5,60%を維持する程度に回復した。
バッテリ残量表示も正しい値を示すようになり、残容量5%でカメラを起動しても電源が落ちるなどの寿命末期症状はなくなった。

HTC10を購入したのは2016年6月頃なので、おおよそ3年前となる。
真夏に車のダッシュボードに取り付けて、充電しながらナビを使用したり、急速充電を多用していたのもバッテリ劣化を加速させた要因かもしれない。
リチウムイオン電池は高温状態での使用・保管と、満充電状態での保管により急速に劣化が進む。
電池の寿命を労るのであれば、本体が高温状態となる急速充電を避けるのが良いと思う。

これまでの劣化状況を鑑みると、あと2年は十分戦えそうだ。
それまでに新機種に乗り換える可能性もあるが、分解してより愛着が湧いたので、しばらくはこのまま運用してみようと思う。

【便利メモ】
  • HTC診断ツールの起動:*#*#3424#*#*
  • 参考にした動画:
    https://youtu.be/T5uLJJnEHMk
    https://youtu.be/OIAXFCHbiU0

[2019/11/15追記]
バッテリ交換して7ヶ月程度ですが、バッテリ交換前のようなヘタリ具合に戻りました・・・。バッテリ自体も膨張しており危険なため常用は諦めてPixel4に移行しました。

以上