これは2013年に書いた以下の記事の続編です。
伝送線路の特性インピーダンスの測定 その2(簡易TDR法)
ヤフオクでアナログ帯域4GHzのオシロ(Tektronix TDS7404B)を安価に落札できたため、これを活かすべく過去に作ったTDR治具の性能向上を行いました。前作はユニバーサル基板にリード部品を配置して、信号を取り出す端子も適当に処理していました。
今回はより高周波的センス(?)を反映して、接続部はSMA端子としました。また、表面実装部品を採用することで浮遊インピーダンスを小さくし、測定品質の向上を図りました。
↑2013年頃に作った基板
↑今回作った基板
基板は2層1.6mm厚で、中央にGNDプレーン付きコプレーナ導波路(50Ω)を配線したものを使用しました。電源のインピーダンスを極力小さくするため、レジストの上から銅箔テープを貼ってVccプレーンとし、下層のGNDプレーンとパスコンを形成しています。この銅箔面積で100pF程度の静電容量が得られました。さらに、低周波領域でのインピーダンスを下げるために追加のパスコンを多数配置しています。
アッテネータとディバイダには1005Mサイズの抵抗を使用して極力密に実装します。
回路図は以下のようになっています。
ワンゲートロジックのシュミットトリガインバータで矩形波の発振を行い、バッファ用のインバータを経由して抵抗パワーディバイダに接続されています。バッファ用インバータを無くして発振用インバータで直接アッテネータを駆動しても良いと思います。
DUTとMONITOR端子は50Ωで整合されており、50Ω終端可能なオシロに直結して使用できます。
↑回路図
NC7SZ14の電源電圧定格は1.65~5.5Vですが、電圧を高くするほどtr/tfが高速になります。つられてオーバーシュートも大きくなるため3.3~5.0Vくらいの範囲で使うのが良さそうです。
以下にMONITOR端子から出力される波形を示します。
DUT端子は50Ωで終端、オシロの入力インピーダンスは50Ω、アナログ帯域4GHzでの測定です。
Vcc = 5.0V時には10%程度のオーバーシュートが生じますが、割ときれいな立ち上がり波形です。オーバーシュートを無くすためにICの電源ピンのパスコンを色々変えてみたりアッテネータ定数を変えてみましたが劇的な改善は得られませんでした。-3dB帯域が5GHz程度の低インピーダンスプローブを使用し、IC出力端で測定しても同様のオーバーシュートが生じていたため、NC7SZ14の限界のような気がします。
↑Vcc = 3.3V時の立ち上がり特性
↑Vcc = 5.0V時の立ち上がり特性
↑オシロとの接続状態
DUT端子に物理長315mm(SMAコネクタ含む)の同軸ケーブルを接続し、終端状態を変えると以下のような波形がMONITOR端子から観測できます。
光速で信号が反射すれば (0.315*2) / (3*10^8) = 2.1ns 程度かかりますが、実測では3.2ns程度かかっているので波長短縮率が65%程度と計算できます。
50Ωで終端すると反射がきれいに消えており、同軸ケーブルの特性インピーダンスが50Ωであることも確認できます。
↑終端短絡
↑終端開放
↑終端50Ω
2013年に作った治具では立上り時間が遅く、また高速なオシロも所有していなかったため、このような短いケーブルのインピーダンス測定は困難でした。
今作では100mm程度から測定可能なため、基板上の伝送路のインピーダンス測定などにも活用できるかと思います。
Rise timeが100ps未満でオーバーシュートが小さいパルス源を用意すればさらなる性能向上(距離分解能の向上)が可能になります。
より優れたICが入手できれば追加で評価してみようと思います。
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以下はALLPCBで製造した1.6mm厚FR-4基板のインピーダンス測定結果です。上記315mmの同軸ケーブルの先にテストクーポンを接続し、50Ω終端にしています。
カーソルで囲まれた領域がDUTの伝送路区間です。
この部分の電圧値を50Ω終端時の電圧値と比較することでインピーダンスを算出できます。
DUTの代わりに50Ω終端を取り付けると観測される電圧値は251.89mVでした。
例えばDUT Bでは伝送路区間で247.03mVになっています。
オシロの終端により反射波の振幅が1/2に低減(反射係数Γも1/2のように見える)するため実際の反射電圧は242.17mVとなります。
これより反射係数Γ = (242.17-251.89)/251.89 = -0.03858と求まります。
インピーダンスは、Zdut = Zo*(1+Γ)/(1-Γ) = 50*(1-0.03858)/(1+0.03858) = 46.28Ωとなります。
DUT Bの設計値は46.3Ωなのでほぼ設計値の値が得られています。
この試作では、W=1.27mm S=0.25mmで設計したGNDプレーン付きコプレーナ導波路(DUT A)が最も50Ωに近い特性となりました。
ただし、SMAコネクタ接続部分でインピーダンスが低下しているため、SMAコネクタのフットプリントは改善の余地ありです。
例えばセンターピンのフットプリント周辺のみSを大きくするなどの方法が考えられます。
↑DUT(インピーダンス測定用テストクーポン)
↑KiCadに付属するPCB Calculatorでの計算値
↑DUT A(設計値50Ω、実測値49.22Ω)
↑DUT B(設計値46.3Ω、実測値46.28Ω)
↑DUT C(設計値52.2Ω、実測値50.73Ω)
↑DUT D(設計値50Ω、実測値47.22Ω)
■参考資料
・ Tiny TDR | Hackaday.io (https://hackaday.io/project/164165-tiny-tdr)
・アナログ・センスで正しい電子回路計測 (https://shop.cqpub.co.jp/hanbai/books/42/42031.html)
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2021/8/9追試:
パルスがLow→Highに遷移する際には、NC7SZ14のPin5(Vcc)とPin4(Y)が導通するわけですが、よりインピーダンスの低いGNDプレーンに直接Pin5を接続したほうが特性が改善するのでは?と思い実験してみました。
Pin5をGNDプレーンに接続するため、Pin3はには負の電圧を供給してやる必要があります。
また、バッファ用のインバータを外して発振用インバータの信号を直接アッテネータに入力してパルスを取り出してみましたが、スルーレートの低下はなく十分な立ち上がり時間が得られています。
↑NC7SZ14のピン配置
↑回路図
↑部品実装の様子
↑Vcc = -5.0V時の立ち上がり波形
正電圧版と比較すると、
・立ち上がり時間:247ps → 227ps
・オーバーシュート:10.2% → 7.8%
と若干の改善が見られました。
数を見てるわけではないのでICの特性ばらつきの可能性もありますが・・・。
インバータを1段にしたことで立ち上がり前のフロアの揺れが消えています。
なかなか良い感じだと思います。
市販されているTDR測定用のパルス源には更に高性能なものが存在します。
立ち上がり時間が 32ps でオーバーシュートの発生が生じないことを謳い文句にしています。
この製品も出力電圧が0 ~ -500mVとなっており、内部で負電源を生成しているようです。どのような構成になっているのか気になりますね・・・。
比較的安価に高速なパルスを得る方法としては、10Gbps SFP+用のレーザドライバICを使うというものがあります。
MAX3798はレーザ変調用信号に 26ps (typ) という非常に高速なtr/tfを実現しており、これを活用して
TDR sampler/pulse generatorを構築するプロジェクトがHackaday.ioに投稿されています。なかなか興味深いのでぜひ覗いてみてください。
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