2024年8月8日木曜日

ublox NEO-7M と NEO-F10T のタイムパルス比較

ublox NEO-F10T を搭載した評価キット EVK-F10T を購入したので、
 GPSモジュールを利用した基準タイミング信号源の作製
で取り上げた 中華製 u-blox NEO-7M モジュールと、NEO-F10Tの1PPSタイムパルスを比較してみた。

購入した EVK-F10T✨️

【アンテナ】
・ublox NEO-7M -> カーナビのGPSアンテナ(ハードオフで入手)を使用
・ublox NEO-F10T -> 付属の ANN-MB1-00-00 を使用(L1, L5 multi band)

【測定機材一式】
上から順に
・ublox NEO-7M 受信機
・EVK-F10T
位相差測定機(MAX10 FPGA / 測定分解能:1ns)
・GPSDO(位相差測定機に10MHz供給)
これらをポータブル電源で稼働できる状態にし、場所を変えてロギングした。

測定機材一式

車のルーフに設置したGNSSアンテナ

測定場所は、
アパートベランダ軒下、アパート駐車場、琵琶湖の湖岸近くの駐車場(全天見渡せる)
の3箇所。


【受信機の設定と受信状態例】
※両受信機ともに Debug Messages を有効状態でu-center 2で状態を監視
※初期値からの変更内容を記載
■ublox NEO-7M
・UBX-CFG NAV5
   Dynamic Model = 2(Stationary)
・UBX-CFG NMEA   CFG-NMEA-DATA1
   Numbering used for SVs not supported by NMEA = 1 (Extended 3digit)
・UBX-CFG PRT   1 - UART1
   Baudrate = 230400

アパート軒下での受信状況(NEO-7M)

■ublox NEO-F10T
・GNSS Configuration
GNSS Configuration

Survey in の設定を行い、自動でアンテナの位置を特定した後に TIME モードで動作させる。高安定なタイミングパルスを出力するために必須の設定。
・CFG-TMODE-MODE = 1 (Survey in)
・CFG-TMODE-SVIN_MIN_DUR = 300 (300sec)
・CFG-TMODE-SVIN_ACC_LIMIT = 50000 (5m)
・CFG-UART1-BAUDRATE = 230400

アパート軒下での受信状況(NEO-F10T)

【測定結果】
それぞれのロケで5,000秒以上ロギングを行い、NEO-F10TとNEO-7MのPPS信号の位相差をプロットした結果を示す。

生データプロット

10秒移動平均

全天見渡せる湖岸駐車場が最も安定しており、σ = 8.6ns程度の結果が得られた。
アパート軒下については位相変動が大きく、σ = 35.6ns程度となった。
南西方向が開けているが、真南には建物がありマルチパスも多い状況のためと思われる。

【ローカルオシレータとの位相比較結果】
上記結果は、NEO-F10TとNEO-7Mから出力されるPPS信号の位相差を示しており、受信機単体の位相安定性については確認することができない。
そこで、ローカルオシレータとして「10MHz GPSDOの作製」で使用したTCO-6920N(EPSON TOYOCOM製)をフリーランで動作させ、この10MHzから1PPS信号を生成してこれを基準として各々の受信機から出力されるPPS信号の位相変動を測定した。

フリーラン状態のローカルオシレータを基準に2台の受信機のPPS信号位相を測定

ダブルオーブン構造のOCXOとはいえ、フリーラン状態では室温の変化により僅かに発振周波数が変動する。
緩やかなV字カーブはこの周波数変動に起因したものである。
一方、短期的にはNEO-7Mは小刻みに位相が変動しており、NEO-F10Tとは明らかに挙動が異なる。
マルチパスが多い環境では、固定局運用可能なNEO-F10Tのほうが良好なPPS信号が得られることが分かった。

受信機のコストを比較すると、NEO-7Mは中華品を1000円以下で購入できるのに対し、NEO-F10Tは2万円以上と20倍の開きがある・・・。
屋根裏や屋上など、全天が見渡せる条件にアンテナを設置できる環境であれば、位相安定度に大差はないため(※諸説)、使い分けると良さそう。

※NEO-F10TはL1/L5のマルチバンド受信に対応しており、電離層による伝搬遅延も補正されるためマルチパス以外の誤差要因にも強い。良いものは高い、それはそう。

今後、暇があればもう少し詳細&長期的な評価を行うかもしれない・・進展があれば随時加筆する。
.... 安定度の高い発振器が欲しくなる。。チップスケール原子時計が100万切る価格で購入できるみたい。Ala~~沼。

~おわり~

2022年1月8日土曜日

中華製SMA - N変換コネクタと終端抵抗の話

高周波を取り扱うスペクトラムアナライザや信号発生器でよく見かけるNコネクタですが、そのままだと汎用性がなく扱いづらいので N → SMA に変換して使用されることがよくあると思います。

ここで使用される SMA - N 変換コネクタについて、安価な中華製のものは特性がイマイチなものがあるので注意が必要です。今回、AliExpressで購入した特性不明のコネクタと秋月電子で購入したコネクタを比較してみましたので、その内容について簡単にリポートします。また、終端抵抗の闇についても後半で少し触れます。


左がAliEx、右が秋月(通販コード:C-00106)です。50Ω終端はNano-VNAを購入した際に付属していた比較的特性の良いものを使用しています。

左:AliEx 右:秋月


まずはAliEx製から測定。測定にあたって、FPC1500のキャリブレーションデータは工場出荷時のものを使用しています。本来は専用のCALKitを使用して測定前に校正するのが正しい手順ですが信頼できるCALKitを持っていないので省略します。
AliEx製コネクタの測定

SWR特性

スミスチャート表示

アマチュア無線のUHF帯域(430~440MHz)ではSWRは1.03と十分低いですが、3GHzでは1.46まで悪化しています。スミスチャートで見ると周波数が上昇するに従って誘導性→容量性と変化しているので、等価的には以下のような回路になっていると考えられそうです。
コネクタ + Load の等価回路(推測)

Webブラウザ上でスミスチャートを描画できる QuickSmith で確認すると以下のようなトレースになり、なかなか類似しています。(周波数スイープ範囲は1M-3GHz)
QuickSmith でのトレース結果


次に秋月で取り扱いのあるコネクタを見てみます。測定条件はAliEx製と同じです。
秋月コネクタの測定

SWR特性

スミスチャート表示


3GHzまでSWRは1.03以下と非常に良好です。また、スミスチャートで確認してもほぼ50Ωの純抵抗を示しています。ちなみに、秋月のサイトから参考用のテストデータを取得できます。測定はオス・メスコネクタを連結した状態で行っているようです。S11、S22ともほぼ同特性となっており、SWRも9GHzまで1.05以下と良好です。350円でこの性能はかなりコスパが良いと思います。

~~~~~~~~~

中華製SMA終端抵抗の闇についても触れておきます。
以下にSMA終端抵抗の写真がありますが、まともに使えるのは⑦と⑧のみです。
金メッキで高級感を出しているのかと思いきや、すぐに黒ずんでしまい、手には金属臭が残ります。残念ながら真鍮むき出しのようです。
なお、上記変換コネクタの評価に使用した終端抵抗は⑧です。

中華製終端抵抗たち

SMA-N変換コネクタとして秋月製のものを用いて、⑥の終端抵抗を測定すると以下のような特性となっています。①~⑥はどれも同じような特性です。
終端抵抗⑥のSWR特性

終端抵抗⑥のスミスチャート表示


1GHzで既にSWRは1.2を超えており、AliEx製Nコネクタ以上に特性が悪いです。
なぜこんなに悪いのか気になり、一つ分解してみたものが以下の写真です。
特性の悪いSMA終端抵抗分解の図

なんと、リードタイプの抵抗が入っていました。サイズ的には1/8~1/6W程度でしょうか。
AliExの製品ページには 6GHz 2W まで対応しているように書かれておりますが、流石に無理があるでしょう・・。探せばデータ付きのものもAliExで販売されているので、そちらを購入したほうが良さそうです。単価は少し上がって800円くらいしますが。

AliExで販売されている怪しいSMA終端抵抗の例


安価に特性の良い終端抵抗を入手する方法として、減衰率の高いアッテネータを使用する方法や、SMD抵抗で自作する方法があります。

比較的コスパの良いアッテネータとして、AliExでも取り扱いのあるDC-6GHzまでを謳ったアッテネータがあります。例えば30dBのアッテネータを片側開放で使用すれば理論上はリターンロスが往復分で60dB確保でき、SWR = 1.01以下が確保できます。(実際には接続部のミスマッチや製品の性能的にそこまで出ない)
AliExで販売されているコスパの良いアッテネータの例

AliExで販売されている 30dB ATT を終端抵抗として使用してみた結果が以下となります。怪しいSMA終端抵抗よりも遥かに特性が優れていることがわかります。

30dB ATT 測定の様子

30dB ATT の SWR 特性

30dB ATT のスミスチャート表示


後者のSMD抵抗を使った自作方法について説明します。
エッジマウントタイプのSMAオスコネクタ(これは中華製でも割と許容できる)と150Ωの1608M抵抗を3パラで使用します。コネクタの足をカットして、150Ωの抵抗をほぼ均等間隔となるようにはんだ付けするだけで完成です。中華製コネクタ(金メッキではなく真鍮むき出しなのが欠点)を使用すると1個あたり50円以下で作れ、特性もそこそこ良いです。シールドされていないのが気になる場合は銅箔テープなどで覆ってはんだ付けすれば良いと思います。

自作した終端抵抗

自作終端抵抗 測定の様子

自作終端抵抗 SWR特性

自作終端抵抗 スミスチャート表示

冒頭で使用した終端抵抗⑧には及びませんが、3GHzでもSWRは1.1程度となっており十分な性能です。
より高性能を目指すのであれば、高周波用の薄膜抵抗を使用したり、”まともな” SMAコネクタを使用する、抵抗の数を変えてみる など研究の余地がありますが、その頃には信頼できるCALKit(とても高価)が欲しくなっていることでしょう。高周波沼は散財の危険性が高いので程々にしておいたほうが良さそうです。


~おわり~








2021年12月11日土曜日

Wien bridge oscillator の作製


ADC の評価用に 1kHz の低歪な正弦波信号源が欲しかったので、ウィーンブリッジ発振回路を組んでみました。
振幅制御には手に入りやすい 100V 5W のナツメ球を使用しています。

DC12V 電源で動作し、出力レベルは 1.8Vrms 程度(終端開放時)です。

作製した正弦波発振器
電源スイッチはなく、出力用 BNC と振幅調整 VR のみ

ケース内部の様子

ナツメ球が鎮座しています・・。
回路はよくある電球を使った Wien bridge oscillator そのままです。水色の多回転VRは周波数微調整用です。コンデンサはフィルムタイプを使用する必要があります。高誘電率系のMLCCなんかを使うと盛大に歪みます・・・お試しあれ(笑
銅箔テープで包まれた部品は 12V入力±12V 出力の絶縁型 DCDC です。DCDC 出力には LCフィルタと 2SC2120 を使ったリップルフィルタが入っています。オペアンプには低歪の LT1469CN8 を使用しています。

綺麗な正弦波信号が出力されています

出力信号の歪み率を測定するために、オーディオ用 ADC に接続している様子
ADC には E1DA Cosmos ADC (Grade A) を使用
(搭載 ADC は ESS Technology 製 ES9822 PRO, 32bit, DNR=128dB)

WaveSpectra で測定している様子

THD は 0.00007%(-123dB)、THD+N は 0.00029%(-110dB) と非常に低歪な信号が得られました。
振幅制御にナツメ球を使用しているデメリットとして、本体を振動させると振幅が揺らぐ(AM変調が掛かる)が挙げられます。フィラメントの振動が抵抗値の変化として観察され、ゲイン制御が不安定になるようです。車載など振動が避けられない場合は LED と CdS セルを向かい合わせたアナログフォトカプラでゲイン制御するのも有りだと思います。

せっかくなのでオペアンプを色々変えて歪み率を測定してみました。

① ド定番 LM358
LM358 は比較的重たい負荷を駆動するときには出力段がB級動作をします。B級動作ではクロスオーバ歪が増加するため高調波が多く発生します。オシロスコープの波形では特に目立ちませんが、スペクトラム表示を見ると LT1469 との差は明らかです。
THD は 0.045% まで悪化しました。スピーカを通して耳で聞いても私の耳には違いがわかりません・・(笑)





② コスパ最強 NJM4580DD
オーディオ用を狙って作られた高出力電流&ローノイズかつそこそこ帯域も稼げる(GBW15MHz)オペアンプです。秋月で単価30円という破格な割に高性能なのでよく使います。シリーズレギュレータの制御用に使用すると LM358 よりも一段と低ノイズな性能が得られます(そのうち記事を書きます・・・)
THD は 0.00057% となりました。非常に優秀です。



③ ローノイズ NJM5532DD
NJM4580DD と同クラスのオペアンプです。入力換算雑音電圧が5nV/√Hz@1kHzと低雑音です。また、動作電圧範囲が±22Vまでと高耐圧です。秋月で単価80円です。
THD は 0.00045% となりました。NJM4580DD と比較すると、4次以降の高調波レベルがかなり落ちています。600Ωをドライブするパワーもあり中々頼りになりそうな石ですね。



④ ゼロドリフトオペアンプ ADA4522-2ARMZ
チョッパー技術を使用した超低オフセット電圧(5μV max)、ローノイズのオペアンプです。低周波用LNAの作製でも使用しました。
THD は 0.00095% となりました。NJM4580DDと比較すると高調波のレベルが若干大きいですが、優秀ですね。



⑤ 番外編 ファンクションジェネレータ RIGOL DG1022Z
実験用信号源として活躍中のファンクションジェネレータです。1kHz 正弦波を出力してスペクトラムを見てみました。歪、ノイズともにオペアンプで構成した発振回路には及びません。25MHz の帯域を持っているので同じ土俵で比較するのも失礼ですが。外部から GPS 同期の 10MHz を供給しており、周波数精度は抜群に良いです。



⑥ 番外編 オーディオ用アイソレータ
以前作製したトランス式のアイソレータの歪を測定してみました。発振器のオペアンプは LT1469CN8 です。
THD は 0.00055% で良好でした。2,3,5次の高調波が若干増えています。




【参考情報】
・・・ アナログフォトカプラを使用した低歪正弦波発振回路


以上