前回に引き続き、便利な測定治具を作りました。
比較的低周波(20Hz~22kHz)の微小信号の簡易測定には、市販のオーディオインターフェースが使えます。最近はハイレゾの流れもあり、高分解能&高速サンプリング可能な ADC を積んだオーディオインターフェースが安価に手に入ります。
オーディオインターフェースのライン入力 or マイク入力に、測定したい信号を入れてやり、飽和しない程度のゲインに調整した後、PC ソフト(例えば WaveSpectra や Audacity)上で信号を観測できます。
測定対象物が電池駆動でフローティング状態にできるのであれば特に問題になりませんが、直流安定化電源やオシロスコープなどと GND を共通にしている場合には、GND ループによるノイズの侵入で S/N が低下し正確な測定ができません。
そこで今回はライン信号用トランスを使用したアイソレータBOXを作ってみました。
と言ってもトランスを箱に入れてコネクタを取り付けただけの簡単工作ですが・・・。
中身はこんな感じになっています。
丸座絶縁BNCコネクタ(秋月:C-00093)→ トランス(松下通信工業 IT-1107)→ XLR コネクタ(NEUTRIK NC3MD-LX-HE)です。信号用トランスには1次2次間のシールドがあり、このシールドを XLR コネクタの GND およびケースと接続しています。トランスを固定するホルダは3Dプリンタで作成し、ケースとは強力両面テープで固定しています。
トランスの詳細スペックは不明ですが、おそらくライン入力用のトランスだと思います。
1次2次間、1次シールド間の耐圧は 1000V 以上ありました。
オーディオインターフェースには Steinberg の UR22mkII を使用しています。
アイソレータBOX との接続は約 2m のシールドケーブル(線材は CANARE L4E6S BLACK)を使用し、バランス接続しています。
次に 10Hz 20Hz 100Hz 1kHz 10kHz 20kHz 1uVrms 正弦波 を入力しました。
概ね 20Hz~20kHz でフラットな特性です。
概ね 20Hz~20kHz でフラットな特性です。
周波数は 1kHz 固定で、10uV ~ 100mV を 20dB ステップで入れてみました。
信号源は SG (RIGOL DG1022Z) + 60dB ATT です。
結果は以下の通りで非常に良好でした。ゲインつまみは3目盛りです。
1uV → -111.21dBFS
1uV → -111.21dBFS
10uV → -91.00dBFS(+20.21dB)
100uV → -70.94dBFS(+20.06dB)
1mV → -50.83dBFS(+20.11dB)
10mV → -30.78dBFS(+20.05dB)
100mV → -10.78dB(+20.00dB)
ゲインつまみを最小にすると 1uV 入力時に -120dBFS となり dBV として直読ができて便利です。
最後にIMRR(Isolation Mode Rejection Ratio)について見てみます。
ここでは、ゲインつまみを最小にして実験しています。
絶縁トランスを入れているとは言え、1次2次の容量結合によりコモンモード成分(アイソレーションモード成分)が多少は伝わります。また、周波数が高くなるほど IMRR は悪化する傾向があります。測定方法は、入力端子を短絡し、ケースと短絡された入力端子間に正弦波交流電圧を印加して2次側に漏れ出る信号をオーディオインターフェースで観測します。
印加周波数は 60Hz と 1kHz、10kHz の3パターンとしました。
■60Hz
・シングルモード 10uV入力時に -99.64dBFS
・コモンモード 1V印加時に -124.88dBFS
→ IMRR = 124.88 - 99.64 + 100 = 125.2dB
■1kHz
・シングルモード 10uV入力時に -99.87dBFS
・コモンモード 1V印加時に -98.57dBFS
→ IMRR = 98.57 - 99.87 + 100 = 98.7dB
■10kHz
・シングルモード 10uV入力時に -98.88dBFS
・コモンモード 1V印加時に -67.54dBFS
→ IMRR = 67.54 - 98.88 + 100 = 68.66dB
市販のアイソレーションアンプでは 60Hz で 180dB 程度確保できているものもあるため、あまり良いとは言えないですね。微小信号観測時には GND 接続に注意しなければなりません。
~おわり~
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